マイノリティであるということ

最寄りの駅に桜並木がある。今満開だ。 その並木に、なぜか一本だけ桜ではない木が混じっている。 たぶん楠かその仲間。桜より少し背が高く、青々とした葉がきれいだ。 しかし桜並木の中の楠は少し居心地がわるそうにみえる。 ここに居ていいのかな? 場違い…

身体と心の有り様について

からだの有り様と、こころの有り様は似ている、とこの歳になって気づく。 私の場合は「把握があいまい」ということ。 仕事で特に問題となるのだが、あいまいに把握してわかったつもりでいる、もしくはそれで十分だと思っていると後から足をすくわれる。 それ…

へんなところが似る

母方の祖母との年齢差は、58才。 だから私が祖母をはっきり認識したとき、祖母は60代だったはずだ。 もちろん記憶にある祖母はすでに老人だった。 特にそう感じていたのがまぶたのしわ。 水分のなくなったまぶたに上下に入ったしわだ。 笑ったり表情が動くた…

山の暮らし

山で一年暮らした。 一年だけだったけれど、挫折して山から降りたけれども、そこでの暮らしで得たものは大きかった。 それは自信だった。 会社を辞める前は、自分の仕事に意義が見出せず苦しかった。経験や知識もあったのに、それに価値を感じられず、無意味…

青春の瞬き

「嵐にしやがれ」の最終回を見た。 とても平和で、暖かく、笑顔あふれる、希望のあるエンディングとなり、さみしい一方、メンバー5人とはまたいつでも会えるような、そんな近しさを感じた。 折に触れ見る動画がある。 「SMAP× SMAP」最終回の「青春の瞬き」…

上でもなく下でもなく

お店で買い物をしたとき、 荷物を届けてもらったとき、 「落としましたよ!」と持ち物を拾ってもらったとき、 あなたは相手に何とお礼を言いますか。 「ありがとう」ですか? 「ありがとうございます」ですか? ありがとう、だとなんとなく上からな感じがす…

あの日の八代亜紀

大学3年の年末。仲の良い女子4人で、忘年会をした。場所はいつものように、ひとり暮らしの私の部屋。 大学はそれぞれ違うので、おしゃべりが止まらない。恋愛のこと、学校のこと、サークルのこと、そろそろ考えなくてはいけない就職活動のこと。 鍋を囲ん…

コミュニケーションということ

「人間同士、いつも伝わりあえたらいいと思うから、伝わらないことは怖い。 でも、言うことで間違いなく伝わっている。 怖がっているのは、その先のこと。 何事もおそれない大きな人間でいてほしい。」 コミュニケーションについて考えるときいつもこの言葉…

ミチイさん

ミチイさんは花屋の上得意のお客様だった。 しかし一度も顔を見たことはない。店に来たことがないのだ。 ほとんど仕事で海外におられたから、電話やFAXで発注がくる。いつもとても忙しい様子だ。その隙間を縫って電話をしているのがうかがえる。 けれど声は…

関西の顔、関西の声

以前に仕事で姫路に行った際、お昼を食べに駅の地下の寿司屋に入った。 そこの職人さんの顔に目が釘付けになってしまった。 決して関東にはいない、関西の顔。 吉本新喜劇に出てきそうな顔というのか…顔の造作すべてに丸み、まろやかさがある。ごちそうさま…

信頼関係

山でのんびり暮らす、という目論見が外れて私は、街の暮らしに戻ろうとしていた。 山で「のんびり暮らす」ことができると思っていること自体、都会人の勘違い、甘えだということが1年で骨身にしみていた。 山の人はみんな働き者で、のんびりなどしていない。…

配られたカード

予備校で隣の席にいたワタラセ君はとても頭がよかった。 頭がよすぎて、私のような凡人には何をどこまで考えているのかわからないフシがあった。 エントロピーについて説明してもらったがどの参考書よりもわかりやすかった。 洞察力があって思ったことを忌憚…

追悼 岡康道さん

広告界の巨匠、岡康道さんが亡くなった。 岡さんとは一面識もないけれど、その作るものに魅せられていた者として、書き残しておきたいと思うことがある。 岡さんの姿を、二度ほどおみかけしたことがある。表参道の駅から骨董通りにかけての場所だった。 スー…

○の内ビューティ会

これではあまり伏字になっていないけど、こんなふうな名前の会に仕事で参加することがあった。季節は初夏だったと思う。 商業ビルのなかの、美容関係の小売店だけが参加する意見交換・情報交換の会だ。 美容関係だから女性だらけ。 アドバイザーとして参加し…

トルテ

それは私の住む街にあった洋菓子屋の名前だ。 水色のリボンがかかったその白い箱には、宝石みたいにきれいで、子供たちには宝石より価値のあるケーキが詰まっている。 今でも忘れられないのが、ババロア。 丸いスポンジケーキの上にリング状のババロアと、真…

人は水でできているから

大学1年の夏は暑かった。 私は入ったばかりの大学になじめず、ぼんやり辞めようかと思っていた。 でも、辞めてどうする?特にやりたいこともやるべきこともない。 実家に帰って、冴えない夏休みを過ごした後、東京に戻ってきて、しぶしぶ必修科目である体育…

19歳だった

受験が終わり、まだ寒い3月、予備校のクラスの仲間で長野に行った。 仲間のひとりの家の別荘を貸してもらえることになり、泊まりに行ったのだ。 3月の別荘地は、雪が深かった。泊まりに来ているのは自分たちだけ。外は寒い。 けど、別荘の中は暖かく、浪人…

ぺらぺら

会社を辞めようと思ったのは、自分が、ぺらぺらの人間だと思ってしまったからだった。 特にこれというきっかけがあったわけではない。 ほとんど記憶がないくらい、仕事ばかりしていた3年ほどの間は、そんなこと考えもしなかった。 きちんと役割を与えられ、…

手紙

Sへ 元気ですか? 連絡を取らなくなってもう20年近く経つね。 結婚することになると思う、という連絡のあと、久しぶりに電話したら繋がらなくなっていて、ちょっと驚いたけど、心のどこかでああやっぱりな、と思ったんだ。 同じ寮の上下の部屋に住んでい…

人生にツキがある

浪人して通い始めた予備校には、チューターという方がいた。 いわゆる担任、のようなものだ。 高校までの担任と違うのは授業を担当しないこと。 我々のクラスのチューターはアオキさん。 当時「おじさん」と思っていたが、今の自分より全然若い。 最初の面談…

パンツスーツと時計

起きたら間に合うぎりぎりの時間だった。 駅から走って校門を抜ける。 受験シーズン中盤、疲れもあって寝過ごしてしまったようだ。 席に着くと、ひとりの女性が目に入った。試験監督の方。見たこともないようなきれいなシルエットのパンツスーツを着ている。…

アカシさん

またまた花屋のお話。 上得意のお客さんの中に、アカシさんという方がいた。 年の頃は60歳前後だったろうか。銀座のクラブのママさんだ。色白、細面のきりっとした美人。 髪をまとめて紬の着物を着たアカシさんが急ぎ足で来ると、店の中に緊張が走る。 手に…

みるちゃんの紅茶

みるちゃんは、予備校で同じ教室にいたけど、あんまり喋ったことがなかった。 都心のおしゃれな女子高出身で、髪の毛はソバージュで、テニスをしていたからこんがり小麦色で、明らかに私の知らない世界を知っていそうな大人っぽい雰囲気をもっていた。 それ…

玉置浩二

玉置浩二のコンサートに行った。ファンかと言われるとそうではない。でも、フェスなどで彼の後には歌いたくないというミュージシャンが多いという噂を聞いて、一度は生で歌声を聴いてみたいと思っていた。 いったいどれくらいうまいのだろう。 ホールには、…

一隅を守る

私が卒業した中学には、モリヤマ校長先生という方がいた。 小柄で、謙虚で、いつもにこにこしていて、優しい先生だった。 よくジャージをはいて、校庭の木の手入れなんかしていた。 学校にたまたま来たうちの父はそれを見て「校長があんなことするべきじゃな…

国力ということ

花屋で働いているとき、そこは有名なホテルのロビーにあったので、普通に生活していたら会えない人を見る機会がたびたびあった。 その中で、一番素敵だなと思った人は、男性ではアメリカのパウエル元国務長官で、女性ではフランソワーズ・モレシャンだった。…

伯母のたんす

もう80歳を過ぎた伯母がいる。農家から農家に嫁いだ人だ。 その伯母が嫁入りの時に持っていった箪笥があるという。 ひとつはふとん箪笥。昔は一般的だったのだろうか、ふとんをしまうための箪笥。 もうひとつは、普通の箪笥だが、上の引き戸がガラスになって…

京都に行くと思うこと

京都は東京をうらやましく思っていない。

その人は閉店後に現われた

その人は閉店後に現われたのだった。

「任せてみよやないか」

私がホテルのフラワーショップで働き始めて、ほんの数週間しか経っていないころの話。その頃の私は…