19歳だった

受験が終わり、まだ寒い3月、予備校のクラスの仲間で長野に行った。 仲間のひとりの家の別荘を貸してもらえることになり、泊まりに行ったのだ。

3月の別荘地は、雪が深かった。泊まりに来ているのは自分たちだけ。外は寒い。 けど、別荘の中は暖かく、浪人生活を共にした気心の知れた仲間がいて、 カレーを作って食べたり、ボードゲームをして遊んでいるだけでも十分楽しかった。

今日帰るという日、私は、自分の好きな人が自分を見ていないことに気づいてしまった。

他の誰を見ているのかはわからない。

けれども自分を見ていないことだけははっきりと気づいてしまった。

部屋の中では、洋楽好きの子が持ってきていたジャネットジャクソンの"Let's wait awhile"が流れている。 歌詞の意味はわからなかったけど、とても聴いていられなくなった。

こっそり外に出て泣いた。

寒さと雪の白さがからだじゅうにしみて、痛いような辛さだった。

どうしよう。と言ってもどうしようもない。

別荘の陰で、雪を見ながらしばらく泣いて、涙を拭いて部屋に戻り、帰り支度をした。

今まで生きてきた中で一番辛いとその時は思っていた。

19歳だったから。