トルテ

それは私の住む街にあった洋菓子屋の名前だ。

水色のリボンがかかったその白い箱には、宝石みたいにきれいで、子供たちには宝石より価値のあるケーキが詰まっている。

今でも忘れられないのが、ババロア

丸いスポンジケーキの上にリング状のババロアと、真ん中の穴には赤い苺が置いてあり、外側は生クリームで覆われている。フォークを入れると、中にも苺と生クリーム。 スポンジケーキはきめ細かくしっとりとやわらかい。こくのある固めのしっかりした生クリームは、今のところあれ以上のものに出会っていない。

スリーズ、という名前だったと思うが、シロップ漬けのアメリカンチェリーの載った四角いパイも、カスタードクリームとパイとチェリーの織りなす味が絶妙だった。田舎の子供だった私が、アメリカンチェリーの味を初めて知ったのはあのケーキからだったと思う。

よくその洋菓子を買ってきてくれた、母のおしゃれな友人の、茶色いタートルネックセーターの色や、彼女が好んで食べていたスフレチーズケーキの大人っぽい味も思い出すことができる。

今はもうその洋菓子屋はないけれど、そのことを惜しむより、そんな思い出を持っていられることに感謝したい。