追悼 岡康道さん

広告界の巨匠、岡康道さんが亡くなった。

岡さんとは一面識もないけれど、その作るものに魅せられていた者として、書き残しておきたいと思うことがある。

岡さんの姿を、二度ほどおみかけしたことがある。表参道の駅から骨董通りにかけての場所だった。

スーツ姿で、上背のあるその体を傾げるような感じで歩いていた。

眉間にしわを寄せて、考え事をしながら歩いている様子に、成功者というぎらついた感じはなく、 どちらかと言えば、世の中に対して居心地のわるさみたいなものをずっと感じ続けている人なのではないかと思った。

大ヒットしたJR東日本の「その先の日本へ」のCMを思い出すと不思議なのだが、 それはもう大学生になってから見たキャンペーンのはずなのに、 実家にいたまだ小さい頃に見た映像のような気がしてならない。

岡さんが意図した「懐かしさ」という空気がそう感じさせるのだとしたら、その空気の力はすごい、と思う。

子供のころから変わらず持っている感受性がその空気にぎゅっと掴まれたからこそ、 そんな錯覚を起こすのではないかと感じる。

心をぎゅっと掴むこと、掴まれること。

それがなかったら長い人生を歩き続けることはできない。

心をぎゅっと掴む虹を何度も見せてくれた魔法使いのような岡さんに感謝。