「任せてみよやないか」

私がホテルのフラワーショップで働き始めて、ほんの数週間しか経っていないころの話。 その頃の私は技術も未熟で小さな花束ひとつにも時間がかかり、何より自信がなかった。

ある土曜日の午後、ご家族3人で来店されたお客様がいた。旦那様と奥様とお嬢様。 お嬢様の友達の演奏会のお祝いに花束を持っていくという。

明らかに不慣れな私に、奥様の目は厳しかった。 「花は、これとこれを使ってね、ラッピングは…」 逐一指定をしようとする。

そのとき、旦那様がおっしゃったのだった、関西弁で。

「もうええやないか、このニワタさんに任せてみよやないか」

私はその言葉で何かスイッチが入り、白い胡蝶蘭と華やかなフューシャピンクの花でまとめた花束をフルスピードで作った。 その花束は奥様にもお嬢様にも喜ばれた、「まあ!(まさかこの人がこれを作ったとは)」という感じで。

あのときの「任せてみよやないか」は忘れない。 人は信頼されたらなかなか裏切れないものだ。 そして全力を尽くそうとする。 そのことを学んだ。