花屋の話

ミチイさん

ミチイさんは花屋の上得意のお客様だった。 しかし一度も顔を見たことはない。店に来たことがないのだ。 ほとんど仕事で海外におられたから、電話やFAXで発注がくる。いつもとても忙しい様子だ。その隙間を縫って電話をしているのがうかがえる。 けれど声は…

アカシさん

またまた花屋のお話。 上得意のお客さんの中に、アカシさんという方がいた。 年の頃は60歳前後だったろうか。銀座のクラブのママさんだ。色白、細面のきりっとした美人。 髪をまとめて紬の着物を着たアカシさんが急ぎ足で来ると、店の中に緊張が走る。 手に…

国力ということ

花屋で働いているとき、そこは有名なホテルのロビーにあったので、普通に生活していたら会えない人を見る機会がたびたびあった。 その中で、一番素敵だなと思った人は、男性ではアメリカのパウエル元国務長官で、女性ではフランソワーズ・モレシャンだった。…

その人は閉店後に現われた

その人は閉店後に現われたのだった。

「任せてみよやないか」

私がホテルのフラワーショップで働き始めて、ほんの数週間しか経っていないころの話。その頃の私は…