成人式

もうすぐ成人式の時期だ。

TVで晴れ着の新成人を見るたびに、自分の成人式のことを思い出す。その式は、ひとりの来賓のために忘れることのできないものになった。

風のつよい晴れた日だった。私たちはホールに集まり、懐かしい顔と再会したり、互いの晴れ着を褒めあったりしていた。ありふれた成人式の風景。

やがて式が始まり、壇上には来賓が並ぶ。その顔ぶれを見たとき、私は息をのんだ。そこには、高校のときバイクの事故で亡くなった、H君のお父さんがいたからだ。

 

H君のお父さんは、町の要職についていたこともあったから、そんな関係で呼ばれたのだろうか。多分私と同じように、他のみんなもハッとしていたと思う。

 

さっきまで、前髪の下ろし方が気に入らないとか、帯揚げの締め方が他の子と違うとか、そんなことを気にしていたのが急に恥ずかしくなり、私は小さくなってずっと俯いていた。


その時、そのお父さんが祝辞として何を話してくれたか、申し訳ないことに全く覚えていない。


もういない自分の息子が出席していたはずの式に参列してくれた、ということに衝撃を受け、何か身の置きどころがないような気持ちでいっぱいだったことだけ、鮮明に覚えている。

 

どうして引き受けてくれたんだろう。

断ることだってできた筈だ。

 

けれどあんなに来賓に相応しい人はいなかったと思う。どんなに雄弁なスピーチよりも、「成人できたこと」のありがたさを、そこにいるだけであれほど実感させてくれる人は他にはいなかっただろうから。

 

ちょっとやんちゃで、明るく屈託がなかったH君。生きていたら、どんな大人になっていただろう。

 

時が過ぎて、私はあの時のお父さんと、そう変わらない歳になった。