パンツスーツと時計
起きたら間に合うぎりぎりの時間だった。
駅から走って校門を抜ける。
受験シーズン中盤、疲れもあって寝過ごしてしまったようだ。
席に着くと、ひとりの女性が目に入った。試験監督の方。見たこともないようなきれいなシルエットのパンツスーツを着ている。色はワインレッド。髪は短めのボブスタイル。 院生だろうか。かっこいいな。
目が覚めたような気がして、試験の準備をする。
そして腕時計を…腕時計がない。慌てていて忘れたようだ。
そして教室に時計は…ない。しまった。けど仕方ない。
1限目、英語。時間がわからないからとにかく早く回答する。
なんとか無事に回答しおえた。 でも、このままあと2科目受けるのもつらい。
休憩時間に思い切って隣の女の子に聞いてみた。
「すみません、今何時ですか?」
すると、私が時計を忘れたのだと気づいたその人はなんと、 自分の腕時計をはずして私が見える位置に置いてくれたのだ。
なんて親切。ライバル同士なのに、ありえない親切さだ。
その後の試験は落ち着いて受けることができた。
試験を受けた日にはほとんど行くつもりのなかったその大学に、私は通うことになった。
他にもいろいろ理由はあったのだけど、今思えば、このふたりのおかげで、私はその大学に行くことにしたような気がする。