みるちゃんの紅茶

みるちゃんは、予備校で同じ教室にいたけど、あんまり喋ったことがなかった。

都心のおしゃれな女子高出身で、髪の毛はソバージュで、テニスをしていたからこんがり小麦色で、明らかに私の知らない世界を知っていそうな大人っぽい雰囲気をもっていた。

それが予備校でなくても、みるちゃんと私の接点はほとんどなかったと思う。

浪人生活は粛々と過ぎていき、年明け1月を迎えていた。 それまで好成績をおさめていた私は、願書を出し終えたあたりで突然パニックに陥った。 前の年、センター試験の失敗を皮切りに、すべり止めもふくめて全敗していた私は、 「だけど本当に受かるのか」という疑問に駆られ、自信を失っていた。 ここで落ちたらまた何の保証もない1年が始まることになる。もし落ちたらどうしよう。どこにも受からなかったらどうしよう。 先取り不安の典型例だ。

がらんとした自習室で泣きながら勉強していたら、みるちゃんがひとりで入ってきて 私の机にそっと、缶入りのミルクティーを置いてくれた。 「元気出してね」って。

私はびっくりした。ほとんど話したこともないのに。

ミルクティーは熱く、沁み入るようにおいしかった。

みるちゃんは大人っぽいのではなく、本当に大人だったのだ。

この時期が来るといつも、みるちゃんとあのミルクティーの味を思い出す。 多分一生忘れることはないだろう。