玉置浩二

玉置浩二のコンサートに行った。ファンかと言われるとそうではない。でも、フェスなどで彼の後には歌いたくないというミュージシャンが多いという噂を聞いて、一度は生で歌声を聴いてみたいと思っていた。

いったいどれくらいうまいのだろう。

ホールには、私より少し上、50代くらいの方が多い。見る限りごく普通の人たちだ。

コンサートが始まった。意外にも、トークは全くなかった。とにかく歌う、歌う、歌う。休憩前には何かMCがあるかと思ったがそれもない。そして休憩のあともひたすら歌う。そしてやっぱりうまい。自由自在に声が出て、からだが楽器のようだ。会場にいるごく普通の人たちは、みんな夢中で玉置ワールドに入り込んで、からだを揺らしたり踊ったりしている。隣のカップルの女性はずっと泣いている。

歌声を聴いていて思った。 プライベートがどうとかどうでもいい、だってこんなに歌がうまいんだから…。

この人の歌うことについての才能はずば抜けていて、もっと大事にされるべきで、歌うことでこんなに多くの人の心を動かせるんだから、他のことは大目にみないといけないのではないかと思う。 「歌うこと」だけが人にしてあげられる唯一のことだとわかって、この人は歌っているんだと感じる。

彼がしゃべったのは、最後の最後で「59歳になりました」という一言、そしてアンコールの「夏の終わりのハーモニー」で、会場のみんなに歌うよう促した「陽水さんのとこね」だけだった。 そのことばの、何か壊れやすいものをそうっと置くような話し方に、心を掴まれたのは私だけではないと思う。

あれから1週間以上経つが、私と相方はそれぞれに、スマートフォンで彼の歌声を聞きつづけている。玉置中毒だ。 そしてトーク番組などでの優しく謙虚な話しぶりを見るにつけ、才能がずば抜けていると他人と争うという無益で次元の低いことは必要なくなるんだなとうらやましく感じている。