あの日の八代亜紀
大学3年の年末。仲の良い女子4人で、忘年会をした。場所はいつものように、ひとり暮らしの私の部屋。
大学はそれぞれ違うので、おしゃべりが止まらない。恋愛のこと、学校のこと、サークルのこと、そろそろ考えなくてはいけない就職活動のこと。
鍋を囲んで、夜が更ける。
そのときテレビから聴こえてきたのが「舟歌」だった。
演歌が好きなんていうメンバーはひとりもいないし、カラオケでも歌うことはない。
だけど急にしんとし、みんな口をつぐんでその声に聞き入っていた。
歌が終わると誰かが口を開いた。
「八代亜紀ってすごいね」
その時の写真を今見ると、大人になろうとしているけれどまだ子供っぽいだけの私たちが写っている。
子供にもわかる本物のすごさだった。