配られたカード

予備校で隣の席にいたワタラセ君はとても頭がよかった。 頭がよすぎて、私のような凡人には何をどこまで考えているのかわからないフシがあった。 エントロピーについて説明してもらったがどの参考書よりもわかりやすかった。

洞察力があって思ったことを忌憚なくすぱっと口にするところもすごかった。 大学でなにしてんの?と聞かれて、んー今は本読んでると答えたら「ダメだよニワちゃーん、またそうやって図書館とかに逃げ込んじゃあ」と言われてどきっとした。新しい環境になじめないでいる私をすぐ見抜いていた。

「人間は配られたカードで勝負するのです。頑張りましょう。」 それぞれ進路が決まった3月にまわしたサイン帳にはそう書いてくれていた。 配られたカード以上のものを欲しがる私の貪欲さにもとうに気づいていたのだろう。

ワタラセ君は大手ではあるけど地味なメーカーに就職していった。 ああいう人が普通の会社にいることが世の中のおもしろさであり底力だと思う。 元気ですか、ワタラセ君。私は配られたカードでじたばたと、でも元気に楽しくやってるよ。