一隅を守る

私が卒業した中学には、モリヤマ校長先生という方がいた。

小柄で、謙虚で、いつもにこにこしていて、優しい先生だった。 よくジャージをはいて、校庭の木の手入れなんかしていた。

学校にたまたま来たうちの父はそれを見て「校長があんなことするべきじゃない」と言っていた。

それは確かにそうなのかもしれない。そんなふうにちょこまかと動いている印象ばかりで いわゆる威厳がない先生だったから、生徒の私たちも、どこか先生をなめていたところがあった。

その先生が、卒業の時3年生全員に「守一隅」(一隅を守る)と自筆で認めた色紙をくれたのだ。

中学生の私には、その言葉の意味は表面的にしかわからなかった。

そして「ふん、一隅か。私はもっと大きな仕事をするから関係ない」とさえ思っていた。 だからその色紙が今どこにあるかすら、わからない。

人生も半ばを過ぎて、ときどきこの言葉が心の中に顔を出すようになった。

挫折したり、自分の限界を感じたり、やっている仕事の小ささに嫌になったとき、 この言葉に助けられることが多くなった。 とにかく一隅だけは守っている、と思うことで小さな自分を励ましたりしている。

そして一隅を守ることはなんと大変なことだろう。

今日、入社式の映像が流れているのを見てこのことを書きたくなった。

モリヤマ校長先生、色紙は手元にないけど、あの言葉はちゃんと生きています。