手紙

Sへ

元気ですか?

連絡を取らなくなってもう20年近く経つね。

結婚することになると思う、という連絡のあと、久しぶりに電話したら繋がらなくなっていて、ちょっと驚いたけど、心のどこかでああやっぱりな、と思ったんだ。

同じ寮の上下の部屋に住んでいたころ親しくなって、大学は別だったけど変わらずよく会っていろんな話をしたね。

将来のこと、恋愛のこと。

海外にはほとんど一緒に行ったし、たくさん喧嘩もした。

就職先が決まった時、きっとあなたはその語学力や交渉力を生かして、原油の買い付けなんかするようになるんだろうと私は勝手にわくわくしてた。

入社5年目くらいに会った時、

「きっと私が燃料(部門)に行くことはない」ってぽつりと言ってたことをなんとなく覚えていたけれど、

割と男女の差なく働ける業界にいた私は、その言葉の意味をほとんど理解していなかったと思う。

結婚するんだ、でもなく、 結婚するの、でもなく、 結婚することになると思う、って電話で聞いたとき、

ああ逃げるんだなと思って、私は心から喜ぶことができなかった。

それに気づいてあなたは離れていったんだと、今になればよくわかる。

男女雇用機会均等法から何年経っても、会社と社会にはみえない天井があって、それから「女の最上のあがりは、稼げる男と結婚すること」という価値観も私たちの心に根深く残っていた。

私はその価値観と戦っていて、自分より何倍も能力のあるあなたが戦線から脱落するのを許せなかったんだと思う。

私は勝手に戦っていただけで、他人の選択を、許すも許さないもないのにね。

きっとあの頃あなたはもうくたくただったんじゃないかな。

その状況を理解せず、決断を後押しすることも、祝福することもできなかった自分を、申し訳なく、また情けなく思っています。

久しぶりに会う機会がもし来たら、あなたが幸せだったらいいなと思う。本当にそう思う。

私も幸せに暮らしてるからこそ、そのことがどんなに大事かわかるようになった。

そしてもし幸せじゃなかったら、どうしたら幸せになれるのか、一緒に考えたいなと思う。

どこかであなたがこの手紙を読んでくれたらいいなと思う。

誰しも生きている限り、生きているその時代から自由になることはできないけど、

時代を変えることはできるかもしれないと、私は思うようになったんだよ。

Cより